逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 広大な敷地に、荘厳な建物が建っていた。

 中央に大きな入口があり、両翼がシンメトリーの形で伸びている。
 天への憧憬を示す尖った屋根、等間隔で並んでいる縦長の窓、それを囲む丸みを帯びた柱、そんな様式が果てるともなく続いている。
 内部にはいったい幾つの部屋があるのか、気が遠くなるほどの規模を感じた。

 初めて入る王宮にソフィーは目を奪われていた。
 ラクレスという地方の人間にはハインツ邸でさえ目を見張るものだった。
 しかし王宮はその比ではない。

 庭を多くの人が行きかっている。官僚、用人、女官、警護兵、誰もが早足で職務に向かっていた。

「なんど来てもここは圧巻ですな」
 執事は屋敷の用事で何度か訪れたことがあり、
「私は初めてですよ。こんなに威厳があってすごい所なのですね」
 リズは目を輝かせている。

「さあ、アーロン様のお部屋へ向かいましょう。この奥の建物ですよ」

 王宮に出仕する高官は自分の部屋を持っていた。
 シュテルツの招きだと使者は言った。しかしまずアーロンの部屋に落ち着くことにした。
 用人に案内されるまま広い廊下を進んで行く。
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