逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 女官長は宮中で仕える女性の最高権威だ。ふつうならハインツ邸の使用人である自分らに挨拶に来ることはない。
 女官長は、背後にいるソフィーをおもんばかっているように思えた。

 ア―ロンが新国王になればソフィーは王妃だ。そのための挨拶に思えた。
 しかし今は選定のまっ最中だった、その位置がまだ確定していない。ここはどうするべきか。

「女官長様に来ていただくなどと申し訳ないことでございます。それでは私の方から参りましょう。場所をご案内いただけますか」

 ソフィーに向くと、
「すぐ戻りますので、ここでお待ちくださいませね」

 ソフィーを伴って挨拶に行く、これも筋違いになってしまうのだ。

 リズが居住まいを糺して女官のあとに続く。
 その緊張を見て、ソフィーは改めてここが王宮であることを思った。

 そして部屋に一人残された。
 落ち着かずあたりを見た。そっと窓辺に近づいた。

 王宮の様子が一望できた。
 向こうに高くそびえるのは物見の塔だろうか。

 荷物を満載した荷車がいるかと思えば、カッカッと馬を疾走させる騎士もいた。
 剣の訓練をしている男達がいる、するとその背後にあるのは兵舎だろうか。

 自分が知らないアーロンの宮中での居場所、それを思ってどこかが高揚してくる。
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