逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「事情は全部知っている、信じるかどうかはお前次第だ」
 懐から札入れを出した。
「当座の生活費だ、お前たち親子のだ。手放した子は三ヶ月だったか。母が恋しくて毎日泣いているはずだ、会いたくはないか」

 ベスが目を見張った、見る見る涙がうかんでくる。

 オルグは周囲を見渡すと、
「この店の用心棒は何人だ、店の前にもいたが」
「今はあの人達だけです」
「だったら裏口は?」
「この向こう。でもそこから出たら表の男に見つかってしまいます」

 オルグはベスの手を取った、急いで裏口に向かう。
 外に出てピューッと指笛を吹いた。

「はしれっ! あの道の角へ向かって走るんだ」
 ベスを促した。

 表の男がそれに気付いた。
「おいっ、逃げたぞ、捕まえろ」

 ベスの足は遅い、用心棒がすぐさま追いついた。
 最初の男がオルグに掴みかかった。
 オルグが向き直って応戦する。

 ほかの用心棒もやって来る。
 だがオルグの護衛が彼らに飛び掛かった。さっきの指笛で護衛を呼んだのだ。
 屈強の護衛が即座に男をねじ伏せた。

「急げ、一刻も早く王宮へ帰るのだ」
 オルグはベスを馬の前に乗せて走り出した。

 背後でさっきの女がわめいている。
 その声がしだいに遠くなっていった。


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