逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 二人がゆっくり神殿から降りて来る。

 前庭の大広場にあふれるほどの人が集まっていた。
 全国から参列した諸侯であり、ハインツ家の執事やリズであり、この王宮に仕える数多(あまた)の要人だった。果ては、堀の向こうには一般市民もいる。

 二人が姿を見せると大歓声が上がった。
 駆け寄る者、拍手をする者、手をあげて喝采する者。

 階上から紙吹雪が落ちてきた。
 雪のようでもあり花びらのようでもあるそれは、視界を遮るほど一面に舞っていた。

 ソフィーの目に涙が浮かんだ、それを見てアーロンが微笑む。

 階段は踊り場で区切られ、それぞれをおりて行く。
 庭に続く最後の段には高さがあった。くだるたびソフィーにかけられたローブも大きな動きで下へ下へと落ちてくる。

 ア―ロンが耳元で、
「ずいぶん長いローブだな」
「そうでしょう」

 ヒールは高くつま先立ちのようだった。
 用心して下っていく姿に、
「転ぶなよ」
「そ、そんなこと言ったら却って、あっ」
「なにっ」

 体勢を崩した彼女をとっさにアーロンが支える。
 それは抱かれる格好になった。

 会場が一瞬しんと静まる。
 そして割れんばかりの歓声が起こった。

 あと数段で下に着くというとき、アーロンはソフィーを抱き取った。
 腕の中に入れて地面に下ろす。

 会場にまた大歓声がわいた。
 ソフィーは頬を染めてアーロンの後ろに隠れた。

「いったい、お二人は」
「はい、いったい何をやっておられるので」
 リズと執事が目を剥いた。
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