逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 王宮の政務室でシュテルツが書類を見ていた。

 ノックがあってアーロンが入ってくる。
「ちょっと教えてほしいんだが」
「どうしたんだ」

「夕べ珍しい客が来てな。ラクレス領のソフィーという娘だ。それがケイネの愚息のギースに連れられていた」
 まるで引っ立てられるようだったと続けた。

「ラクレス領はどうなっているんだ。領主のラクレス公は、彼女の父親はバッハスとの国境警備に当たっているはずだが」
「それがなぜか向こうと連絡が取りにくくなっている」

「政務でもか、実は軍でもだ」

 そうか、とシュテルツは手元の書類を見せた。
「これはケイネ隊の派遣費用だ、国境へのな」

 アーロンは苦笑して、
「グリンドラ王も考え無しのことを言ったものだ」

 ひと月前、建国を祝う酒の席があった。

 この国の王グリンドラはケイネに、
『国境に行ってみないか、警備の応援としてだ』

 酔った勢いでの言葉だった。
 ケイネはぎょっとして、
『それは、あのラクレス公が着任されておりましょう、私などは』

『だがバッハスが越境して紛争が起こっている。いつまた襲撃があるかもしれんからな。お前の息子の、ギースとか言ったな、そのギースと応援に行って来い、しばらくの間だ』

 ケイネは色を失った。
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