逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 そんな歓喜の祝典が一日中続いた。
 人々は高揚し、胸を躍らせて世紀の式典を祝った。

 その余韻が胸に渦巻く。
 やがてそれが穏やかな波になり、そして時間と共に静まっていった。


 シュテルツは向かいのツタをじっと見つめていた。
 戴冠式と結婚式が挙行された翌々日のことだった。

『私には、あの壁を這っているツタが、民の姿に見えるのだよ』
 あの言葉がよみがえる。

 卿はグリントールの行く末を案じ、懸命に国政に取り組んでいた。
 まさにシュテルツの生涯の師だといえた。

「ああ、デュークさま」
 口からこぼれでていた。

 そしてかすかに聞こえて来るものがあった。

「・・よく、やった」
 と。

「お前はよくやった、精いっぱいやってくれたのだ。さぞ疲れたことだろう、さあこっちへ来るといい。こっちへ、私のそばへだ」

 手招きする姿が見えた。

 シュテルツの両手が宙に差し出された。
 力が無くなっているはずの腕が、空間でピタリと止まった、しばらくそうしていた。

 そして・・。
 穏やかな笑みを浮かべたまま、シュテルツはその五十年の生涯を閉じた。
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