逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 アーロンが部屋に帰って来たのは深夜になっていた。

「なにかあったのですか」
 駆け寄るソフィーに、
「いや、まあちょっとね」
 ドカリと椅子に座った。

 顔に疲労が滲んでいる。
 それを察しながら、ためらいがちに声をかけた。
「今日は、珍しい人が来ていたのですよ」

「珍しい人?」
「あのワイトさんです」
「ほう」

「しばらく見なかったと思ったら、なんだかねんりょうとかを探しにあちこちへ行っていたんですって」
「ねんりょう、を?」

「それで、ちょっと訳の分からないことを言っていて。この、ちきゅうを、もうすぐ離れるのだからなんて。おかしいでしょう」
 そのワイトはハインツ邸に帰っていた。
 王宮で宿泊を、と誘っても窮屈だからと辞退した。

「それでここを離れるから、あなたに挨拶をしたいのだそうです」
「そうか、相変わらず掴みどころのない奴だな」
 苦笑していたが、

「そうか、あいつも離れていくのか」
 遠くを見る目になった。
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