逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 カライル、カライル・・頭の中で反芻する。
 するとかすかな声が蘇った。
『思うに、カライルはケイネの弱みを知っていると見たぞ』

 かつてシュテルツが言っていた。ハインツ邸にやって来たときだ。

『あくまで俺の憶測だが』
 と前置きをして、
『カライルは鉱山があるラクレス領に食指を伸ばしている。ラクレス公が行方不明になったのを機に、あの家の執事や家令を引き抜いているのだ』

 唐突に話し始めた。
 あのとき、シュテルツは何かを掴みかけていたのではないのか。

 しかしそれを聞き出すことなく終わっていた。
 直後にワイトによって【歳の交換】という衝撃の出来事が起きたからだ。
 そして間を置かずバッハスの未曽有の侵攻に遭遇した。

 何かを掴みかけて、しかし手繰り寄せる糸が弱かったのか、シュテルツ自身も再び話題にする事はなかった。

 今になってそれが思い出される。

 ラクレス領の鉱山だと?
 ダン・ラクレス公が行方不明になったのを機にだと?
 剣の材料になる鋼鉄にも手を広げていただと?

 そうだ、あのとき彼はこうも言っていた。
『バッハスとケイネの接触を密告する投書があったのだ。そのケイネとカライルもどこかで繋がっているのだ』

「どうかなさったのですか」
 目を据えたアーロンに聞き、
「今すぐカライルを呼んでくれ、この王宮にだ、この俺の前にだ」
 低く彼が答えた。

         * * * * *
< 444 / 477 >

この作品をシェア

pagetop