逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 久しぶりにその男が帰って来た。
 廊下で下僕とぶつかりそうになって、

「あっあぶねぇ、お前どこを見て歩いているんだ」
 居丈高にいう男に、
「ああ、ワイト・・様でございますね」

「なんだ、その微妙な空間は」
「いえ、ずいぶん久しぶりだったのもので、失礼いたしました」

 ワイトは辺りを見回して、
「でもなんだか静かだな。いつもはアーロンの側近とか、用人とかが行きかっているだろう」
「そうなのですが、アーロン様ご夫妻は王宮にいらっしゃったので、我々はその留守をお守りしているのです」

「アーロン夫妻だって? それはアーロンとソフィーのことか」
「さようです」
「それに、二人が王宮に行っただと、いったいなんの話だ」

 ワイトは、アーロンとソフィーが結婚したことを知らず、まして国王夫妻として王宮で暮らすようになったことを知らなかったのだ。

「なんてことだ、ちょっと留守にしている間に、この俺に断りもなく」
 怒ったように言う。
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