逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「なにか、あったのですか」
 再び聞いてみた。

「今日は商人のカライルと会っていたのだ」
「カライル?」
「そうだ、この都の大商人だよ。いや、だったというべきか。その後はあのケイネ伯だ、息子のギースともども出廷させていたのだ」

 ソフィーが息をのんだ。
 ギース、ケイネ伯。
 そのどちらにもいい印象はない。

 二人とはいちばん最初のソフィーがアーロンと出逢ったときに絡んでいた。

 ケイネは彼女を屋敷に拘束しようとし、ギースはその手先になっていたのだ。

「どんな、お話をしていたのですか」

「カライルは国境に出兵していたケイネ伯と結託していたのだ」
「けったく?」

「そうだ。ああしかし」
 と言い淀んで、
「これはまた今度話すことにしよう。今夜はもう遅いし、ゆっくり出来るときに、おいおいとね」

 そう言うと顔をつるりと撫でた。
 わずらわしいものを振り払うような仕草だった。同時にソフィーに気をかねて切り上げたようにも思えた。

「・・私は」
 つい口にした。
「出来ればいまお聞きしたいです。どんな話なのか気になるし、それに、いま聞かずに時間を置けば、その間が却ってつらくなりそうだから」

 ア―ロンが見つめてくる。
「そうだね。ではカライルの話からしよう。あいつは君の家の、ラクレス家の執事や家令を引き抜いていたのだ」
「・・え」
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