逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「ラクレス領にある鉱山資源を自分の物にするためだ。そうやって周囲を壊してラクレス家を崩壊させようとした。実に老獪な手段だよ」
「・・・・」

 あのときは、と思った。
 二人が辞めたのは、父のダン・ラクレスが国境で行方不明になった直後だった。
 家中が混乱しているときの唐突な辞任だった。
 間を置かず用人や下僕も退職した。それは傾いた家を見限るような行為に思えた。

 後に残ったのはソフィーと数人の侍女だった。そんな女達だけで国境から送られた大勢の負傷兵の面倒を見てきたのだ。

 それから家の周囲に不審者が出没するようになった。
 鍵をこじ開けて屋内に侵入するに至って、屋敷を捨てて山の洞窟に身を寄せた。苦肉の策だった。

 ア―ロンと出逢ったのは、まさにそんなときだった。
 ケイネ伯とギースの計略にのせられ、ケイネ邸に連れて行かれるとき彼に助けられたのだ。

「それで?」
 先を促した。

 彼はうなずいて手を差し伸べた。
 自分の隣に座るようソフィーを導いた。

 ゆっくり近づいて行く。
 それは『父の消息』に近づく行為でもあるような気がした。

 アーロンは横へきた彼女をじっと見た。

 そして、
「明日、お父上を、お迎えに行ってくるよ」
「・・!」
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