逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「でも執事様とリズ様はいらっしゃいますよ。アーロン様の荷物を取りに来たそうで。またすぐ王宮に戻られますがね」

「あの二人がいてもなぁ」
 と頭をかいて、まあ仕方がないかと歩いて行く。

 執事とリズが驚いてワイトを見た。
「それは無理です」
「そうです、王宮は用のない者は立ち入り禁止ですからね」

 にべもない返事に、
「ふうん、そうなのか」
 あっさり引き下がった。

 馬車が出発しようとしていた。
 積み込んだ荷物の確認をして執事とリズも座席に座る。

 と、その天井からかすかな音がした。
「え、なにか物音がしませんでしたか」

 執事が上を見上げれば、
「まあ、あなたもお年を召されたのですか。幻聴が聞こえるようになるなんて」
 リズがおかしそうに笑う。
 執事が口をへの字に曲げた。

 馬車が出発した。
 その屋根にワイトが張り付いていた。

「俺がこの屋敷に来たときも、こうやって入ったんだからな」
 と言ってから
「あ、あのときは途中でアーロンの馬車の上に落ちたんだ」

 目を丸めて笑った、そして屋根に寝そべった。
 上空には抜けるような青空があった。


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