逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「場所は、国境のあのラクレス隊の兵舎がある近くだそうだ」

「どうして、そこだとわかったのですか」
「ケイネの息子が白状したのだ、あの夜のことを供述したからね」

「ギースが! だとしたら、手を下したのはやっぱり彼ですか」

「いや、ケイネの手下だそうだ。複数の手下に対して、お父上は勇敢に戦われたそうだよ」

「そう、ですか」
 つぶやくように言うと、
「覚悟はしていました。ずっと前から、たぶん父はもういないのだろうと」

 しばらく宙を見つめていた。

 そして唐突なように、
「アーロン様はお疲れでしょう、こんな時間まで大変でしたね。どうぞもうお休みください。出来れば明日の朝はゆっくりされたらと思うのですけど」
 最後は笑みまで浮かべている。

 いつも通り寝支度をしようと歩いて行く姿に、

「ソフィー」
 呼び止めた。

「だいじょうぶか」
 彼女の足が止まった。

「泣いてもいいのだ、思いっきり」
 近づいて肩に手をかける。

 彼女ははっとしたように、
「・・連れて行ってあげなければ。父を、フィアーラが咲くあの丘へ。母が眠るあの隣へ。そうですよね」

 後ろから抱きしめた。

 抱かれて体が不用意に傾く。
 支えられたのに気付いたのか気付かないのか、半歩前に出た。

 アーロンはその体をターンさせた。
 自分の胸に抱いて、腕で肩で全身で包み込む。

 その胸にすがって嗚咽した。

 つらそうな声が、部屋に響いていた。
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