逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 作業が再開された。
 間もなく、布に覆われたダン・ラクレスが姿を現した。
 ガイとセルビィの表情が変わる。

 ソフィーを支えるアーロンの腕に力が籠った。

 そして・・。
 空気が乾燥している砂漠地帯のせいか、公は比較的きれいな姿だった。

 地上に出たダン・ラクレスを確認して、丁寧に棺に入れようとする。

 と、その彼の右手に視線が集まった。
 それはまるで自分の胸の内ポケットを指し示している格好だった。

 ガイとセルビィが互いを見交わす。
 ガイが何かに促されるようにしゃがみ込み、内ポケットに手を入れた。

 彼の手がなにかを取り出した。
 それは黄ばんだ一通の封書だった。

 中を広げて表情が変わった。
 それを手にアーロンの元に駆けていく。

 それはあの『密書』だった。
 ギースが、父ケイネ伯と血眼になって探していた問題の『密書』だった。

【先刻よりの情報を感謝する。我が軍はまもなく国境線を越える。ついてはラクレス隊の陣容、見張りの交代時間、所持する武器の種類・個数の詳細をお教え願いたい】

 土にまみれたそれは、しかし一文字一文字はっきり読み取れた。
 まさにこれが事件の核心を握る鍵だった。

 当時、グリント―ル側で国境を守っていたのはラクレス隊とケイネ隊のみ。その片方の隊名が明記された文書は、誰宛のものか一目瞭然だった。

 ケイネ伯と息子のギースは、血眼になってこの密書を探そうとした。自分らの罪が明らかになるからだ。

 あの、負傷兵を洞窟へ移動させようとした日、思いもかけずギースがラクレス邸にやって来た。
 ソフィーに『密書』のありかを問いただすためだった。しかし彼女はその存在をも知らなかった。

 そんな紆余曲折を経て密書は白日の下にさらされた。
 ダン・ラクレスが文字通り死守する形で届けたのだ。

 その黄ばんだ密書を、ソフィーは絶句して見つめていた。


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