逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
『あれは雁だ、ほら鈎型に隊列を組んで飛んでいるだろう』
 大空を見ながら、
『冬になる前に南へ渡っていくんだよ』
 そう教えてくれた。

『いいな、あんな高いところに行ってみたい』
 両手を空に向けた娘を、父は高く抱き上げた。
『ほら、ちょっとは近づけただろう』
 耳元で楽しげに笑っていた。

 あの声を、あの手の温もりを今でもはっきり覚えている。

 二人はラクレス邸の庭にいた。
 今は王妃として王宮にいる。それをもし父が聞いたらどんな顔をするだろうか。

 自室の窓から青い空が見える。
「いいな、あんな高い所に行ってみたい」
 つい口にしていた。

 ・・と、
「連れて行ってやろうか、あの大空へ」
 後ろから声がした。
 入って来たのはワイトだった。
< 464 / 477 >

この作品をシェア

pagetop