逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「旅立つ準備は出来たんだ。俺のフネ(・・)にソフィー一人ぐらい乗せて行けるぞ」
「え?」

「上空から見たら人も何もかもが豆粒のように見えるんだ。上昇気流に乗ってグンと高度を上げたら鳥になったように感じるんだ」
 憧憬さえ浮かべている。

「それはすごく楽しそうね。でも私は」
「言いたいことは分かっている。アーロンとここにいたいんだろう」
「ええそうよ」

「だがそんな感情はすぐ吹っ飛んでしまうぞ。宇宙は無限に広がっていて何があるか分からない。星が点在する空間を飛び続けて次の世界を発見しに行くんだ。ワクワクなんてものじゃない、面白くてどうしようもないんだ」

 目が輝いていた。
 『うちゅう』などまるで想像が出来ない。だが摩訶不思議な彼の言動でそんな世界があるのはなんとなくわかる。

 でも、と思う。

 あのとき、空を見ていた自分は本当に飛んでいきたいと思ったのだろうか。
 抱き上げて慈しんでくれる父がいた、だからはしゃぐ気持ちになれたのだ。
 
 そして今、全霊で自分を想ってくれる人がいる。

 あの洞窟の側で、バッハス兵に剣を突き付けられたとき、あの人は躊躇しなかった。ソフィーの命を守るため自分の剣を捨てようとしたのだ。

 父の訃報にも全身で抱きしめてくれた。あの温もりを忘れない。

 心から愛おしい人だと思った。
 自分のすべてをかけて愛せる人、それがアーロンだった。

 ソフィーは微笑んで、
「なごりは惜しいけど、ワイトは大空を楽しんできて。いつかまた会える時があったら、その『うちゅう』の話を聞かせてもらえたらうれしいわ」

 ワイトはじっと見ていたが、
「ああそうか、つけ入る隙なしって訳か。ふーん、そうなのか。まいったな、その幸せそうな顔は」

「そうでしょう?」
 満面の笑みだった。


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