逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「それから、ちょっとあったかもしれないな、その夜にここで」
 意味ありげに笑う。
「ちょっとって? あっ、それは、いえ」
 意味が分かって耳まで赤くなった。

 その妻を見て、
「しかしなんだか不思議な気がするね。あの最初の出逢いから考えると」

「本当に。それまであなたという人を知らなかったのだし、それが偶然出逢って、今はこうして父の葬儀を取り仕切ってくれているのですもの」

 父の棺はもう地中にうずまっている。
 わずかな時間でその形になり、これから長い時をそこで刻んでいくのだろう。

 頭上では楠木の葉がサラサラと揺れていた。
 風が吹き渡ってきた。
 故郷のにおいがする。
 ソフィーは顔を上げてそれを感じていた。


          * * * * *
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