逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「でもね、ワイトは言ったのよ、私達と出逢えてよかったって。ここに来た甲斐があったって」
「・・・・」

「出逢いって、すごく不思議な気がするの。あなたと出逢って、いろんなことがあったわね。それを思い出していたらね、なんというのか、人生自体が不思議だと思えてしまって」
「じんせいが、不思議?」

「ええ。いろんな人達と出逢って、その出逢いは何かの偶然でそうなったのかもしれない。一人の人間がひと筋の道を歩いて行くというのは、・・そう、例えばグルグル回って進む螺旋階段のようなものじゃないかと思ったりするのよ」

 その目に光があった。
 前のめりになって語るこんな姿は今まで見たことがなかった。

「そうやって時を渡って生きていく。その時間、春夏秋冬は同じように巡っているけれども、それは同じ夏じゃなくて、同じ冬でもない、螺旋のように位置を変えているのじゃないかと」
「らせん、のように?」

「そう、なんとなくそう思うのよ」
「そうかも知れないね。春夏秋冬・・言い換えれば、東西南北のようなものかな」

「東西南北? そうだと思う。段を進むごとに東から北になり西になる、それが螺旋階段ね。そんなふうに自分の回りには何かがあって一つが終わると次が始まって、それを繰り返している。それは同じ繰り返しに思えるけれど同じものじゃない。そうしているうちに私達は歳を取っている」
「・・そうだね」

「人はなんのために生きているのか、そんなことを考えていたりする。父も母も逝ってしまったけど、この世にいたことはきっと何かの意味がある。二人は全く消えて無くなった訳じゃない。この時間軸の中に何かが残っている、そんなふうに思えるのよ」

「ああ。具体的には大事な娘を残してくれたんだ、少なくとも俺にとってはね」

 とけるような笑みで見つめられた。
 思わず息をのむ。
 アーロンの手が伸びて抱き寄せられた。
 カラカラという車輪の振動が、彼の肩を通して伝わって来た。
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