逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ・・と、前方の道から声がした。
 ワーッという歓声はラクレスの領民だった。
 国王夫妻が故ダン・ラクレスの葬儀にやって来ることを聞いていたのだ。

 ソフィーは窓から身を乗り出した、そして手を振った。
 彼らの声が大きくなる。

「ソフィーさまぁ」
「王妃さま!」
「国王陛下、アーロン様」
 子供はおろか、大人までが駆けて来る。

 人々は有り得ないほど近づき、驚いた近衛兵が威嚇しようとした。
 しかしそれは苦笑に変わった。国王がさり気なく止めたからだ。

 馬車は速度を落とし、彼らは二人の間近まで来た。
 目の前に国王夫妻がいる。しかも王妃はこの間まで自分らの領主令嬢だったソフィーだ。
 手を伸ばせば触れる位置だ。だがさすがにすがりつく者はいない。

「こ、ここに、ラクレスに来てくださってありがとうございます」
「お二人とも、どうぞお健やかに」
「ソフィーさま、お幸せに」

「ありがとう、みんなも元気でね」
 笑顔で答えるソフィーに再び歓声が上がった。

 その奥にはこれまた微笑んでいる国王がいた。

 破格の対面だった。彼らにすればまさに夢の瞬間だった。
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