逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「ちょっと待って、いったいどうしたって言うの」
 困り切ってあとずさりする。

「答えてくれよ、どっちがいいのか」
 顔には秘かな笑みが浮かんでいた。
「・・?」

「さあ、以前のアーロンなのか、今のこの若いアーロンなのか」

 彼の視線が背後に流れた。そこには二人の寝室があった。

「そ、そんなこと」
 その意味を察して息をとめた。

「答えろよ、ほら」
「そんな。答えられないわ、だってどちらもいいんですもの」
「え?」
「こうやって見る若いあなたも、昔の渋みがかった壮年のアーロン様も」

 彼はじっと見つめていたが、
「ふーん、そうだな。いいもんだろう、夫が二人いるようで」
 ニヤリと笑う。

「そんな、二人だなんて」
「さて奥さま、今夜はどっちのアーロンをお望みでしょうか。いぶし銀のような老練の男なのか、それとも息もつかせない筋骨隆々の若い男なのか」

 ソフィーの顔が赤く染まる。
 なにかを言おうとした口を自分のそれで塞いだ。
 彼女を抱いてベッドまで行く。

 天蓋の垂れ幕に二人の影が映っていた。
 ゆらゆらと動きやがてゆっくり倒れていく。
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