逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「でもこれは父上のせいでもあるんだ。あの事件で俺を勘当して、満足に小遣いもくれなかったじゃないか」
「あの事件だと?」

「例の密書のことだよ」
「し、しかしあれはお前が悪いんじゃないか」

 確かにそうだった。だが、
「あのソフィーを連れてくるときは辻馬車で帰って来たんだ。途中で路銀が無くなって歩く羽目になったんだ。屋敷までの金があればこんなことにはならなかったんだよ」

「それもお前を立ち直らせようとしたためだ。密書で大失態をおかしたくせに何を言っているんだ」

「あれを失態と言うのですか」
「失態でなければ何なのだ、お前のせいでこんなことになったんだぞ」

「あの状態ではどうしようもなかったんだ。密書を処分しようにも、そんな隙も時間もなかったんだ」
「だからあのソフィーを連れて来いと言ったのだ。連れて来て密書のありかを問いただすのだ。お前はそれもできなかったのだ、そこをわかっているのかっ」
 しゃべるごとに激高してくる。

「ええい腹が立つ! よく考えてみることだ、自分が何をしでかしたのかをだ」

 捨て台詞を残して部屋を出た。
 ドタドタと荒い足音が廊下に響く。

 怒気を含んだ激情が、ギースを突き刺した。



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