逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 翌日のことだった。
 のっぽは着替えようとした。
 ポケットからガサリと音がする。

 紙を取り出して、
『見回りのときこんなものが落ちておりました』 
 ラクレス公の側近に見せた。

 その顔色が変わる。
 ギースが持っていた密書だったからだ。

 ラクレス公の部屋に部下が集まった。

『これを発見したのはいつだ』
『昨日の偵察中だと申しております』
『すると、もう一昼夜が経ったという事か』
 ラクレスは息を止めた。

『ただちに王宮へ報告すべきだ。だがすでにケイネは王宮への道中を固めているだろう、蟻一匹漏らさぬようにな』

 密書の判明は彼らの致命傷になるからだ。

 かたやラクレス隊には王宮からの応援は必至だ。
 王都への連絡をどうするか。

『私が行ってまいりましょう』
 腹心が前に出た。
『ここは平坦な砂漠地帯だ、だから我らの行動は目についてしまう。しかし夜の闇に紛れたら何とかなるかも知れない』
『それは、あまりに危険だろう』
『いえ、行かせてください。このままだと我が隊とケイネ隊との全面衝突は必至だ、そうでしょう?』

 夜半に彼が出発する、それを声もなく見送った。
 
 そしてこの事態は、応援が来るまでケイネ隊はもちろん配下のラクレス隊にも伏せておくべきだった。
 この駐屯地全体が混乱に陥るからだ。
 
 ケイネの出方がわからない、応援が来るまで最大限に警戒する必要があった。

 事態は緊迫していた。
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