逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ラクレス隊は騒然としていた。

 昨日からラクレス公がいないのだ。彼ばかりでなく側近の四人も姿が消えていた。まるでかき消すようだった。

『一体どうしたというのだ、無断で外出する公ではないはずだ』
『・・その、奥様の葬儀に出席したいとおっしゃっていたそうですが』
 五日前にラクレス夫人が死去している。

『それならそうかも知れないな』
 皆がうなずいた。

『だが一昨日は出席しないとおっしゃっていなかったか』
『直前になって気持ちが変わったのかも知れない。なにしろ喪主はまだ若いあのソフィー様だからな』
『そうかも知れないな。だとしたら明日か明後日にはお帰りになるだろう。それまで・・』
 公の不在を伏せておこうとした。

 現場を預かる指揮官が持ち場を離れることは特異なことだ。やむを得ぬときは上奏して許可を得る、それが規則だった。
その手続きがされてない。表ざたになったら公の立場が悪くなるのは必至だ。

 しかし三日、四日と経っても公は帰って来なかった。

 時間が過ぎるごとに事態が重くなり、隊員は追い詰められていく。

 しかし、それを追求する立場にあるケイネ伯の行動も謎だった。
 なぜかラクレス公の不在を王宮に報告しなかったのだ。


           * * * * *


< 70 / 477 >

この作品をシェア

pagetop