逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 その日から屋敷の平穏が破られることになった。

 少年は天井に張り付いて家人を驚かせ、厩に行っては馬を威嚇する。飼い犬からは胡散臭そうに吠えられまくっていた。

「あの者はいつまでこの屋敷に置いておくのですか」
 耐えきれずに執事が聞いた。

「しばらく預かろうと思っている。言葉をしゃべれないから気をつけてやってくれ」
「言葉が、しゃべれないのですか」

「そ、そのなんだ、オオカミ、そうだ、オオカミに育てられた少年・・かも知れないな」
「オオカミですか」

「そうだ、こいつがそう言っていた、生まれてからずっと山にいたのだと」
「生れてからずっとですか、山にいたのですか。言葉もしゃべれないのに?」
 返事に詰まる。

「それで名前は? なんと呼べばよろしいので」
「そうだな。こいつは体がまっ白いからホワイト・・、そうだワイトと呼べ、ワイトだ」

 いま名付けられた少年はキョトンとこっちを見ている。感情のないビー玉のような目をしていた。
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