短編童話作品集

たった一人のアカリちゃん

 小さな電気屋さんです。 ショーケースにはいろんな電球が置いてあります。
ピンク色の可愛い箱に入れられた私もずっとずっと買ってくれるのを楽しみに待っています。
 ある日、優しそうなおじいさんが私を取り上げてくれました。
「おー、これは可愛いじゃないか。 うちの玄関に下げてやろう。」
おじいさんはそう言うと買い物籠に入れて私を連れて帰ってくれました。
そして、、、。
 その夜から私はこの家の玄関を照らすことになったんです。

 男の子たちが居ます。
お父さんも仕事から帰ってきました。
朝になれば私は一休みします。 そしてまた夜に辺りを照らすんです。
雨の日も風の日も、玄関を出入りする人たちの声を聴きながらね。
今日も楽しそうだなあ。
家族がいっぱい居て羨ましいなあ。
おじいさんも優しい人で良かった。

 でもでもでも、いつか、おじいさんの声を聴かなくなりました。
おかしいなあ。 どうしたんだろう?
私はぶら下がったまま、様子を見ています。
冬が来て、春が来ました。
あれあれ? 誰も居ないぞ。
知らない間にみんな引っ越してしまったんですね。
それでも私はぶら下がったままなんです。
辺りを照らすことも無くなって私はいつか錆びていくんです。
誰に見守られることも無いままに。
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