理央くん!大好き!かなさん!好き好き!

風邪

「あちゃー」


静かに聞こえる悲鳴は私、秋の声であった。


まさかの風邪!熱!39度!


結構きつい。


でも今は夏!夏風邪はバカがひくもの!


だから私は絶対に風邪ではない!


「きーがえよ!」


理央くんには絶対にうつさない!


マスクで行くぞ!


「りーおーくん!」


「あ、き?」


「そうです!秋です!起きてください!!」


「うるさい」


「ひどい!」


この会話は何回目だっけ??100、いや、考えないでおこう。


「おはよう……なんでマスク?」


「ニキビができちゃったので!」


最高の理由だ!


「ニキビはマスクするとむれたりして良くないんだよ。とっちゃいな。」


ぐっ正論か!


「いや、いいの!理央くんに見せたくない!」


「俺は別に気にしない。」


いや知ってるけどね??バカにされたことないもんね??


「ダメです!理央くん、今日は1人で学校行って!ごめんねぇ!寂しいだろうけど我慢して!!」


「なんで?もういいでしょ?一緒に行ったって。」


「ちょっと理央くんのことについて病院で聞いてくるんで!」


「なぜ……?」


「なんでもない!早く着替えてね!」


バタン!


少し乱暴に閉めてしまったぜ!


まあでも全く怪しくなかったな!(いや、だいぶ怪しかったぞおい。不審者を超えてたぞ)


よし!


「じゃあ行ってきまーす!!」


とりあえず病院に行かなければ!風邪はひいてないけど、いや、ひいてないけど!


だけど熱があるんだもんしょーがないよねぇ?!!


「いってら……」


「ウィッス!」


歩いて行っちゃうぞ!……と思ったけどちょっと遠いな〜。


タクシーを呼ぼう!


あっかなさんじゃない通常のね!


びょういんとうちゃーく!


「咲さん!風邪じゃないけど風邪ひいちゃった!薬ちょーだい!」


咲さんは看護師さんで受付もやってて昔から仲良いんだ!


「あら、何度?」


こんな変な私の言葉にももう慣れたみたいで突っ込んでこない。


「39度!」


「そんな元気に言えないはずだけどねぇ。分かった。一回測ってみてくれる?」


「はーい!」


8度台くらいになってるといいな〜!


ピッピッピッ


おっし!


何度だ〜??


あらまぁ、なんということでしょう。


40度!


最高記録!ハッピー!!


……じゃなくて、


「40度でーす!」


「わお、これは血液検査とかしなきゃねー。先生は榊先生でいい?」


「それってさ、注射のことであってる?」


無理無理無理!


咲さん!そんなニッコニコの笑顔で頷かないでぇ!!


「はい、今なら少しすいてるからもうみてもらえるわよ。行ってらっしゃい。じゃあ部屋はいつものとこだから。」


「はー、い。」


注射するくらいなら死んだほうがマシ!


ではないけどね??いや、ないんだけどね??


だってさ、最初は多分大丈夫だろ、って思うじゃん?


そしたらほっそい針が出てくるの!


心霊でしょ??


いや、ふっとい針が出てきても困るんだけどね??


「せんせぇ!」


「よっおはよ。熱すごいんだってな。顔も赤いし。」


「おねがいがあってぇ!」


「注射なしってのは無しで。」


な、なぜ心を読んだ!!!!


「そこをなんとか!!」


「無理です。はい座って。心臓の音聞くよ。制服の上からでいいから。」


「せんせぇー……ちぇーっ、ていうか優しいね!制服って下に何枚も着込んであるからめんどくさいんだよ!分かってるぅ!!」



傷も見えないし!


「そりゃどーも。」


「はい、後ろ向いてー」


「はーい!……先生、昨日さ、言われたじゃん、怪我どうしたのって。」


「言ったね。」


「学校の先生に現場見られちゃってさー!全部言っちゃった!」


「へー」


「それでね、怪我はね、普通にまあ階段から落とされたりしたやつでした!チャンチャン!」


うっわ、みたいな顔してくるのやめてよ〜!


「最悪じゃん、何されてんの。チャンチャンで終わらせないでくれる?……あれ?秋ちゃんって運動神経めちゃ良くなかった?避けれなかったの?」


「あー階段の時は、私を押そうとしたみたいで、避けたらその先輩の方が落ちそうになっちゃってね〜!だから先輩の体支えたときにね。」


「どういうお人好しなわけ?」


「わっかんない!体が自然に動いてるの!あっ自慢じゃないよ?」


「知ってる。事実だもんね。」


「そうそう!」


「じゃあ注射するよ。」


「ほんとにやるの?」


「やるけど」


うわひどい!なんでそんなに笑ってるの?!


「秋ちゃんが痛い顔するの注射くらいだからさ、ちょっとレアだよね。」


「次から注射の時お面持ってきてやる!」


「やめてくれ?はい、さすよ」


それいう必要ある???今仏の無の感情をやってたのに!


ていうか、いったぁい!!


「はいっおわったよ。」


「先生、私の腹部大動脈の血をとったの?」


「いや、腕のだけど。」


それくらいの激痛が走ったよ!


「ほんとかなぁ?あっこれで終わり?もう終わり?」


「えっとね、鼻にぶっさすやつあるけど、やる?」


「やるわけがない!!」


「だよね、じゃあもうないよ。何か聞きたいことありますか。」


「はい!」


「では秋さん。どうぞ。」


「理央くんの余命は、ほんとにあと一年ですか?」


「……」


先生を困らせちゃうことわかってるけど、私はもし明日お別れになるんだったら嫌だから、正確な日を教えてほしい。


「先生、ちょっと伸びたとか、減ったとか、そういうのでいいの。」


「あんまり変わってないよ。今のところ大丈夫だよ。不整脈とかも最近起きてないみたいだしね。」


「そっか、ありがと。……ねえ、先生、理央くんは最後何してあげたら喜ぶの?」


私にはわからない。


いつも無表情で、ご飯作った時だけ嬉しそうにして、だからってバクバク食べたら心臓に悪くて。


「秋ちゃんが考えることだよ。少なくとも理央くんは入院より家にいて、学校に行くことを選んだ。医者としてはちょっとやめてほしくはあるけどね。倒れた時ここにくるまでに時間がかかったら一大事だし。」


「じゃあ入院したほうが理央くんが生きる確率は高まるの?」


「……その可能性はあるかもしれないね。
よく聞いてね。
理央くんは、まだ高校生だ。心臓の手術はとても負担がかかる。高校卒業したら手術の許可が降りるかもしれない。

もし、もしそうなったら、生きる確率は格段に上がるよ。」


「じゃ、じゃあ!ーー」


「でもね、今の話はなかなか難しいことなんだ。理央くんの心臓の病気は重いもので、そんなに生きられるものじゃない。手術まで生きられるかの確率は低い。」


「何%くらいなの?」


「正確にはわからない。でも僕はこの病気で大学まで生きた患者を見たことは一度もないんだ。」


「でも、0%じゃないんだよね?」


「そりゃそうだけど。」


「じゃあいい!私理央くんを説得する!先生、教えてくれてありがと!!」


「なんでそこまで理央くんに寄り添うの?いや、おかしいんじゃないけど。」


それは、


「私と理央くんは兄弟だからだよ。小学2年生からの。私の親ひどかったから。理央くんに救われたの。もうそりゃすんごく!!だから生きてほしい!!」


「そっか。……説得、頑張ってね。」


「うん!先生、バイバイ!」


手を振って病室を出るとルンルン気分で待合室に向かった。


だって、だって!


理央くんが生きられるかもしれないんだもん!!


こんな嬉しいことないよ!!




プルプルッ


「はーい!」


病院を出ると理央くんから電話がかかってきた!


『なんだ、元気そうじゃん。早く帰っておいでよ。』


「えっ?理央くん今お家?」


『うん、今日はだるかったから。で、どうだった?』


あらら、サボりは良くないぞ〜!!


「いやーそれがさ!血液検査の結果はまだわかんないし、心臓の音とかも正常だったみたいだし、ちょっとわかんないや!って!なんで体調が悪いこと知ってるの!?」


『いや、普通に気づいてたし。」


「あちゃー……
でも多分だけどとりあえずすぐ熱は下がると思う!」


『へー、ということは、夏風邪だね。』


ギクッ!!


「な、夏風邪は馬鹿がひくものなの!」


『ということは秋はバカなんだね。』


「そ、そんなにあっさり!」


『自分で言ったんじゃん。』


いや、言ったけどねぇ!?そうなんだけどねぇ!!??


「まあいいや、早めに帰るね。」


『はいよ、じゃあね』


「うん、ぱいばーい!」


ピッ


よし、急いで帰るぞ〜!!


40度の熱での走りの第一歩!


せーの!


「秋様。どうぞ。」


「わっ」


ありゃ!


こけたよ!


一歩目、踏み外した……


「大丈夫ですか?!すみません!」


「ううん、大丈夫!長い靴下履いたおかげで、無事!怪我無し!」


いや〜朝靴下が長いのしかなくてさ〜!困ったもんだよ全く!


て、私が洗濯してなかったのか……てへっ!


「どうぞ、お乗りください。」


「ありがと!迎えにきてくれたんだね!」


「理央様から言われまして。熱があるようですが大丈夫ですか?」


「全然大ジョーブ!むしろ元気が有り余ってる!」


「それなら良いですけど……」


あ、車進んでる?この車高級だからエンジン音とかしないんだよなぁ。


いつ出発していつ着いたのかとかわかんなくなるよ。


「理央様が心配しておられましたよ。秋様が馬鹿がひく夏風邪をひいた、と。」


「え?それ心配してないですやん!!」


なんかよくわからん言語使ってしもうた。


「ていうか、秋様、なんて言わなくてもいいよ!かなさん!

呼び捨てでOK!

普通に年上だし!」


「いや、なんというか、癖でして。様、ずけも、敬語も。」


「そっか〜!まあ自分が好きなふうに呼んだらいいよね〜!!私割と敬語で喋られるの好きみたいだし!」


「ご理解があり助かります。」


「いえいえ!」


「あと5分くらいですよ。」


「ありがと!ねえ、かなさんっていつから理央くんといるの?」


5分で話すのにはちょうどいい話!


「理央様が生まれた頃からですね。教育係というか、まあ友達というか。」


「へー!なついたりしてたの?」


「いえいえ、今と全く変わりませんよ。」


えー!理央くん昔っからあんな感じなんだ!


いや、別にいいと思うけどね!



「なついてた人いたの?逆に!」


「そうですね。……理央様のお母様ですかね。あまり会えないのに、とてもよくなついておられましたよ。でもお母様はちゃんと理央様を愛しておられました。」


「そうなんだ。理央くんのお母さんが死んじゃったのっていつだったっけ。」


「理央様が7歳の時でした。小学1年生の冬ですね。」


「そっか」


お母さんがいなくなってすぐ私がこの家に来たんだ。


「秋様がこられてよかったですよ。」


「え?」


「あのままではきっと理央様の心は潰れていたと思います。秋様のその明るい性格が理央様には救いだったんだと思いますよ。」


「照れるなぁ!えへへっ」


理央くんの支えになってるんならよかったなぁ。


「あ、理央様がお待ちですよ。」


「あっほんとだ!」


家の前で普段着を着て立っている姿が見える。


「かなさん!ありがとう!
あ、耳かして!」


車から降りて綺麗な姿勢で立っているかなさんに手招きをした。


「なんでございますか?」


そう言って私よりも25センチくらい高い身長のかなさんは私の顔の高さに耳を持ってきてくれた。


「私、理央くんもかなさんがいて、顔に出さないだけでとっても幸せだと思うよ!もちろん私も!」


そう言うとかなさんは私の耳に手を当ててこう言ったんだ。


「わたくしも理央様と秋様のそばにおられて幸せです。ありがとうございます。」


「何話してんの?秋ニヤニヤしすぎ。」


「えへへ!なんでもない!かなさんバイバイ!だーいすき!」


「ありがとうございます。」


かなさんはドアが閉まるまで手を振ってくれた。


「何話してたんだ?」


「ん?」


理央くんの質問に振り向いて、私はこう言った。


「とーっても幸せな話!」









































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