【完】おにぎり恋愛日和‼︎
「挨拶?誰に?」
「夏樹。一応顔ぐらい見せとかないとね」
とっとと終わらせて夜ご飯食べに行こう、と関係者入り口まで一直線に歩いていく。追いかけるように後をついていった私は、入り口の手前で足を止めた。立ち止まった私に気付いた彼は「どうしたの?」と尋ねる。
「え?天音くんの用が終わるまで待ってるよ?」
「一緒に来たら?1人も2人も変わらないし」
つまり私を夏樹さんに会わせてあげる、とのことらしい。思いもしなかったスターの面会に、ごくりと喉が鳴る。
「でも、」
さも当たり前かのように告げる天音くんに私は全力で首を振った。
だってこんな一介の市民がファンを押し退けて芸能人に会うなんて知られたら、私の命は幾つあっても足りなくなる。
一応謙虚な姿勢を示していると思うのだが、目の前の男はなぜか私のことを駄々を捏ねる子どもを見るような目で見てきた。