【短編】ヴァンパイア総長様はあざとかわいい
「そうだよな。彼女じゃないから嘘つくことになるもんな」

 落ち込んだように呟くと、「でも」と顔だけを少し上げる。
 ちょっと上目遣いっぽくなって、私は思わず「うっ」とうめく。

「でもヒメを守りたいんだ。仮でもいいから《Noche》の姫になってくれないか?」

 明るい茶髪の間から見える茶色の目は少し潤んでいて、キレイな肌の頬はほんのりピンク色。
 とっても可愛い顔で懇願されて、私は“姫になんてならない!”とは言えなくなった。

 くっ! あざとい! でも可愛い!

 狙ってやってるってことは分かってるのに、無下に出来ないのはなんでなんだろう。
 私は「んぐぐ……」と抵抗を試みたけれど、「ヒメ……」と子犬のような目で見られた瞬間陥落した。

「うっ……わか、った。でも仮だからね!」
「ホントか? よっしゃ!」

 了承の返事をした途端喜びの声を上げる古賀くん。
 やっぱり目を潤ませてたのは演技だったんだ、と思う一方で本気で喜んでいるのも分かって怒れなくなる。

 もう、仕方ないなぁ……。

 私はため息をついて困り笑顔を浮かべた。

 ヴァンパイアとか、総長とか、姫とか。
 わけ分からないことが立て続けにあってどうしたらいいのかも分からないけど、キレイで可愛い古賀くんを見ていると何とかなるかな?って思っちゃう。

 まったく、とんでもないことになっちゃったな。
 って、夕日に染まった空を見上げて思った。

END
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