君のハグなんていらない!
大地は昔から明るくて、みんなの人気者だった。
目元のはっきりとした整った顔立ちをしていて、それでいて笑うと顔をクシャッとさせるかわいらしさもあって、女子たちが放っておくわけがなかった。いわゆる、モテ男子だった。
ノリもいいし、みんなをまとめるのも上手かった。いつだって、みんなの中心できらきらとしていた。夏の太陽みたいに。
私と違って、いつも自信に満ち溢れていた。
大地が野球を始めたのは、小四の時だった。
「俺も甲子園行くんだぁ」
始めた理由を、大地はそう教えてくれた。
野球のルールすら知らなかった当時の私は、大地が熱心に語る甲子園球場とやらを頭の中で創造し、そこに立つ大地のキラキラした姿をいつも目に浮かべていた。顔を輝かせて夢を語る幼なじみが、あまりにも羨ましかったのかもしれない。
「私も、甲子園、行ってみたいな」
気づいた時にはそう口走っていた。だから口元を慌てて押さえた。
「ごめん。私、野球のこと、何もわかってないのに……」
そう最後まで言い切る前に、大地は私の手を取った。そして透き通るビー玉のような目を私の方に向けて言った。
「俺が、美咲を甲子園に連れてってやるよ」
その瞬間、「どっきーん」だった。
それ以外の言葉で言い表せない。
そして大地は、小指を私の小指にからめて、約束の歌まで歌ってくれた。
それなのに大地は、甲子園なんて無縁の普通科の高校を受験した。
「甲子園なんて、夢のまた夢なんだよ」なんて言って。
何があったかは知らないけど、察しはついていた。
大地には、一緒に夢を追う仲間がいなかったのだ。うちの中学には。
だから私は、高校に入学して早々に帰宅部を選択した大地を無理やり引き連れて、野球部に入部届けを出しに行った。
そこまでしたのは、どうしても見たかったからだ。
あの日の、大地のキラキラと輝いく太陽みたいなまぶしい笑顔を。もう一度。次は、真夏の甲子園球場で。
一緒に夢を追う仲間なら、私がなってやる。
こうして私は、ガラでもない野球部のマネージャーになった。