君のハグなんていらない!
勢いでなったはいいものの、自信は全くなかった。
高校野球部のマネージャーに限らず、女子マネージャーというのはたいてい明るくてかわいくて誰からも愛されて、部員たちのマドンナ的存在だ。いつも一生懸命だから、どんなに不器用でも、どんなに体力がなくても、誰もが手を貸したくなってしまうような。そして部員の誰かと恋に落ちたり、三角関係になったり。
日焼けはしないのに、かく汗は妙にキラキラしていて可憐で。「ファイトー」なんて恥ずかし気もなく言えて。それでみんなの士気が一気に上がるような女の子。
大地にハグを求めてきた、あの女子みたいに。
でも私は違う。暗くて不愛想で、陰キャでコミュ障な理系女。どう頑張っても、マドンナにはなりえなかった。水分補給のウォーターサーバ―だって、一人で軽く三つは同時に運べるし。
まあそんなことはいいとして、当時野球の正確なルールさえわかっていなかった私に、マネージャーが務まるのかどうか不安でしかなかった。
ただ、人間、必ず取り柄はあるもので、それは思いもよらぬ形で役立つ時が来る。
私の場合、理系脳だった。
数字には強かったから、スコアを見て分析するのは思いのほか楽しかった。
また、コミュ障ゆえの趣味の人間観察が、ここに来て相手チームの弱点解析に役立った。
そうしているうちに、マネージャーというより監督のような位置づけとなって、顧問の先生と一緒にベンチで部員たちを睨む日々を過ごしていた。
たかが女子マネージャーが偉そうにと、面白く思わない部員も中にはいただろう。実際私がその日の練習の助言やなんかを一人一人に告げに行くと、みんながみんな顔を強張らせて聞いていた。
だけど私は、みんなに強くなってほしかった。強くなって、甲子園に行ってほしかった。行ってもらわなければ困るのだ。
大地に、甲子園の景色を見せたかったから。