柊星くんは溺愛したい
プロローグ
「ねえ、これ。落ちたよ」
放課後、生徒たちの楽しそうな声が図書室まで微かに聞こえる。それらをかき消すように涼しげな雨を思わせる声が私の鼓膜を揺らした。
振り返るとブレザーを片手に抱えている男の子が立っていた。もう片方の手には小さな紙があり、私に差し出されている。
よく見慣れたそれは図書の貸出カードだった。運んでいる本から抜け落ちたのかな、と思いながら男の子に近づいた。
「ありがとうございます。この本の上に乗せて貰えますか?」
両手が塞がっているので、抱えている厚い本たちの上へと紙を促す。
あ、上靴の色……赤色だ。うちの学校は上靴に入っているラインの色で学年が分かる仕様になっている。
赤色は3年生。そして私、林杏奈は2年生で緑色だ。
「……ん」
貸出カードがしなやかに長い指から本の上へと離れる。先輩のベージュブラウンの髪が丁度よく差し込んだ光に照らされた。
貸出カードから目を離した先輩と目が合う。まるでスローモーションのように。縁取られた睫毛が影を落とした。
サラサラと少しだけ長い髪が揺れる。それと同時に細長い銀色のピアスが左右に呼吸をする。
放課後、生徒たちの楽しそうな声が図書室まで微かに聞こえる。それらをかき消すように涼しげな雨を思わせる声が私の鼓膜を揺らした。
振り返るとブレザーを片手に抱えている男の子が立っていた。もう片方の手には小さな紙があり、私に差し出されている。
よく見慣れたそれは図書の貸出カードだった。運んでいる本から抜け落ちたのかな、と思いながら男の子に近づいた。
「ありがとうございます。この本の上に乗せて貰えますか?」
両手が塞がっているので、抱えている厚い本たちの上へと紙を促す。
あ、上靴の色……赤色だ。うちの学校は上靴に入っているラインの色で学年が分かる仕様になっている。
赤色は3年生。そして私、林杏奈は2年生で緑色だ。
「……ん」
貸出カードがしなやかに長い指から本の上へと離れる。先輩のベージュブラウンの髪が丁度よく差し込んだ光に照らされた。
貸出カードから目を離した先輩と目が合う。まるでスローモーションのように。縁取られた睫毛が影を落とした。
サラサラと少しだけ長い髪が揺れる。それと同時に細長い銀色のピアスが左右に呼吸をする。