柊星くんは溺愛したい
これは、私の問題で……とそこで口を止めた。自信がなくてすっかり俯いてしまった顔に風戸先輩の硬い左の手のひらがガラス細工に触れる如く優しく触れる。

「そっか。それならいいや」


風戸先輩はドサリと私の右隣に腰を下ろした。静寂の中ふと、投げ出された足の上に乗っている彼の右手を見る。

爪の間から血が滲んでいた。まだ新しいそれの原因は予想がつく。私を庇ってバスケットボールを弾いた時だ。


私は先輩の右手を攫った。突然のことにだったにも関わらず彼はされるがまま流れに身を委ねていた。

「ごめんなさい。私を庇ったからですよね。よそ見していた私がいけないのに……」


未だ血が流れる右手を自身の両手で優しく握る。申し訳なさに胸が痛んだ。


「これは俺が勝手に怪我しただけだ。杏奈のせいじゃない」

「保健室に行きましょ?手当してもらわないと」


「別にこれくらい放っておいていいよ」


だめだと首を横に振った。風戸先輩の気遣いが今は辛い。

「早く行きましょう?」


いつまでもこうして座っているわけにはいかない。ベンチから立ち上がった。私を見上げたまま立とうとしない彼の右手を少しだけ引っ張った。
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