柊星くんは溺愛したい
「……おねがいします」

先輩は表情を変えることなくゆっくりと立ち上がった。


私が先輩の右手を一方的に握っていたはずなのに、次の瞬間には彼が私の左手を包むように握り保健室へと歩き出していた。

人とすれ違うとあらぬ噂が立つ、そう思って離そうとするが風戸先輩はさらに強く握った。

𓂃◌𓈒𓐍

不在の看板がドアに掛けてある保健室は案の定、誰1人としていなかった。心の中で先生に謝罪してから棚のものを物色して必要な物を取り出す。


棚のガラスに反射して見える先輩はボーッと窓から見えるグラウンドの景色を眺めていた。その様さえも絵になっている。


消毒とガーゼ、それから絆創膏を貰ってソファに座る彼の隣に座った。怪我の手当という慣れない動きに気づいたらしい風戸先輩は小さく笑う。


「俺の名前知ってたんだね。君、全然反応しないからてっきり知らないと思った」


思いもしない話の切り口に消毒を施していた手が止まってしまった。再び動かし始めたのは数秒経った後だった。

「名前だけは入学してすぐ噂で聞きました。顔と名前が一致したのは今日でしたけど」


「バスケ部の応援はたまに行くの?」

「はい。友達に誘われた時、たまに」
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