追いかけろ、青。
キンモクセイの香りがふわりと乗っかってくる、秋の風と曇り空。
噂を聞きつけた強豪校の関係者たちが見守るなかで。
マウンドの中心、俺は血の付着したボールを右手に握っていた。
(少し痛いな……)
そんな微量な表情の変化に気づいたのだろう監督は、ちょうど前半戦が終わった4回あとのベンチにて、俺を見つめてきた。
『替わるか、友利。お前はもう十分頑張ってくれた』
『…いえ、まだ投げれます』
7イニング制の試合、これから5回表、相手の攻撃。
あと3イニングを投げて完投したいからという理由ではなく、1点リードで負けていたから。
ここで打たれれば追加点になるし、ここを抑えたなら1点差で裏に回せる。
『爪、血が出ているんだぞ。これ以上無理をして投げられなくなったらどうする』
『…平気です』
人差し指の爪の若干の割れが影響し、まさか4回表で点を取られるハメになるなんて思っていなかった。
相手校はそこまで飛躍的な成果を残している学校ではないが、今日も先発登板している相手ピッチャーだけは違う。