追いかけろ、青。
昔から控えめな奴だったから、やっと話したときは貴重だ。
という空気を感じ取ってくれた彗も、箸の動きを止めた。
「スポーツに限らず、すべてにおいて余計なこと考えたら終わりでしょ。
……ああ、ちがう、…単純に行ってほしいだけ。俺も……兄貴に甲子園」
味方は、家族だけだった。
俺が当ててしまったデッドボールで久賀を傷つけてしまったときも、ぜんぶを諦めて野球を辞めたときも。
それでも家族だけは、家族でいてくれた。
流星だって学校でいろんな噂を立てられたかもしれない。
こんな兄貴の弟で、肩身の狭い思いをしていたかもしれない。
当時この弟はまだ小学生だったはずなのに、そんな話を一切俺には聞かせなかった。
「今までずっと我慢したぶん…、“俺の兄貴はキャッチャーとして甲子園に行ったすごい奴”…って、周りに自慢させてよ俺に」
「……おう。兄ちゃんに任せとけ、流星」
彗は、そこまでの会話はしなかった。
聞かれたらうなずくような二言返事。
でも、俺の母親が作った凄まじい量の料理に驚きながらも嫌な顔せず食べてくれて、いちばんは。
ほんのわずか。
小さく、そっと。
初めて見る顔で優しく微笑んでいた。