追いかけろ、青。
「じゃあ……、またな」
「…ひとつ、聞きたいんだけど」
ようやく久賀が音を出した。
背中を向けた俺は足を止めて、待つ。
「なんでキャッチャーにしたの?」
「……どんな球も、受け止めたかったから」
「………」
どんなに抜けたボール球も、スピードが乗った豪速球も。
ぜんぶぜんぶ、俺ひとりで受け止めるべきだと思ったから。
それだけが俺なりの罪滅ぼしのつもりだった、最初は。
「でも今は、ピッチャーをやってたときより……キャッチャーをやってる自分のほうが好きなんだ」
八木坂高校のキャッチャーとして、甲子園に行く俺を応援してくれる子がいる。
そんな俺を見たいと言ってくれた子が、いるんだ。
天才二刀流中学生。
そんなふうに言われていた俺はもう居ないけど、それで満足してる俺がいる。
「俺は…、もしあのまま何事もなく若戸に行って、ピッチャーをやり続けてたとしても。
たぶん甲子園は今より遠くにあったような気がする」