追いかけろ、青。
水悠side




たしかに俺は1度、野球を捨てた。


握れなくなったボール、立てなくなったマウンド。

グラブにバット、背番号1が縫い付けられたユニフォーム。


ぜんぶぜんぶ、目を背けるどころか身体ごと捨てたんだ。



「みゆうくんっ!!」


「……え、なんで?」


「急に連絡取れなくなったから…!!」



自宅前、ひとりの女子高生が立っていた。

ただ俺の姿を目にしただけで、もう逃がさないと言わんばかりに駆け寄ってくる。



「もしかして本命でもできちゃったとか…?違うよねっ、みゆうくんといちばん相性がいいのは私だもんっ!!そうでしょ?」


「あー…、ブロックしたんだよ」


「……え…」


「きみだけじゃない女も、全員」



女に逃げた───、

あのとき女王様な誰かさんから言われた言葉は、決して間違いではなかった。


気を紛らわせられるならなんでも良かったんだ。

野球を忘れられるなら、なんだって。



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