追いかけろ、青。
キャップを被って、身体に似合わない大きめのグローブをはめて、まだ片手で握るには心配にも見えるボールを持って。
強気に笑うそいつが、俺は嫌いじゃなかった。
『だってあたしはコーシエンに行くんだもん!ミユと一緒に!!』
そんな笑顔は、俺が消してしまった。
中学2年の秋、俺が野球を捨ててから関わることはお互いに一切と無くなって。
それでもマネージャーを続けたシズナは、ほんとうは、ずっと、俺を信じつづけたかったのかもしれない。
「……来るんじゃないかって思ってた」
ここは、森家の裏手にある空き地。
よく2人でキャッチボールをした場所。
セミ、鈴虫、コオロギ。
混合する田舎特有の夏を聞きながら、ずいぶん雑草が生えたなあ…と、地面を踏んでいた夕暮れ空の下。
じゃりっと音を出した影へと、俺は振り返った。
「───シズナ」
「…通り道なだけ」
「ふ、相変わらず」
素直じゃないね、ほんと。
ここは裏手なんだから、玄関は反対側。
どう考えたって通り道なわけないのに。