追いかけろ、青。
心では、ではなく、本当に、泣いてたんだ。
お父さん、いつも泣いてたよね。
暗い部屋で、電気もつけず、静かに肩と声を震わせて涙を流していた。
私、見てたんだよ。
知ってたの、泣いてること。
でもなんか、怖くて。
知ることが怖かったし、私が触れたことで逆に消えてしまうんじゃないかって、怖かった。
『お父さん、どうしてスイにはお母さんがいないの?』
『…そうだなあ。お父さんが馬鹿で不器用で、不甲斐なくて。どうしようもない奴だからかな』
『……スイもおりこうさんじゃないから。だからスイとお父さんは、お母さんに嫌われちゃったんだね』
『…ごめんな、彗。でも彗は良い子だ。彗さえ居てくれれば、お父さんは幸せだよ』
『…スイも!スイも、お父さんがいればいいもん。しあわせだもん』
物心ついたときには、ふたりきり。
私が手を繋ぐのは、いつも隣にいるのは、必ず父親だった。
母親は私がそれよりも幼い頃に家を出て行ったきりだという。