追いかけろ、青。




心では、ではなく、本当に、泣いてたんだ。


お父さん、いつも泣いてたよね。

暗い部屋で、電気もつけず、静かに肩と声を震わせて涙を流していた。


私、見てたんだよ。
知ってたの、泣いてること。


でもなんか、怖くて。

知ることが怖かったし、私が触れたことで逆に消えてしまうんじゃないかって、怖かった。



『お父さん、どうしてスイにはお母さんがいないの?』


『…そうだなあ。お父さんが馬鹿で不器用で、不甲斐なくて。どうしようもない奴だからかな』


『……スイもおりこうさんじゃないから。だからスイとお父さんは、お母さんに嫌われちゃったんだね』


『…ごめんな、彗。でも彗は良い子だ。彗さえ居てくれれば、お父さんは幸せだよ』


『…スイも!スイも、お父さんがいればいいもん。しあわせだもん』



物心ついたときには、ふたりきり。

私が手を繋ぐのは、いつも隣にいるのは、必ず父親だった。


母親は私がそれよりも幼い頃に家を出て行ったきりだという。



< 365 / 377 >

この作品をシェア

pagetop