追いかけろ、青。
私の目にはまったくそんなふうに見えませんでしたけど。
「りょーちゃんはまた畑かい。よく働くねえ」
「生き甲斐なのよ。生き甲斐」
この場所には、父とは歳の離れた姉夫婦がいる。
子供がいないため私を引き取ってくれたのかもしれないけれど、おしゃべりな伯母とは違って旦那のほうは無口なひと。
今もせっせと畑仕事に繰り出している伯父さんはたぶん、いやぜったい、私の名前を覚えてもいないんだろう。
「こんなに古い家だったっけ…」
小さな頃、1度だけ。
父に連れられてこの家に来たことがある。
そのときの面影を辿りながら台所を目指し、食器棚から適当な湯飲みひとつを取って、手にした急須にお湯を注ぐ。
私に用意させたということは、「あなたはもうここの家の人間なのよ」と言われたようなものだろうか。
「……やっていける気がしない」
物心ついたときにはもう、父とふたり。
不自由な人生では無かったが、いつも満たされない人生だった。