鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
兄弟のいないハナを気遣ってか、幼い頃はよく遊び相手にもなってくれた。
村人たちだって、田村爺はひときわハナをかわいがっていると噂していたのだ。

それなのに、田村爺は今ひとつもハナを見ようとはしなかった。
ジッと霧の濃く立ち込めた村を見つめている。

その視線の先には大きな山があった。
光鬼と呼ばれる鬼が住む山。

田村爺はジッとそちらを見つめているばかりだ。


「いや！　なにするの！？」


無理やり樽の中へ押し込められそうになり、ハナが叫ぶ。


「これで村の疫病が収まるんだ。勘弁してくれ」


ハナの体を無理やり持ち上げて樽に押し込めながら、男が言った。
その目には微かに光るものが見えてハナはハッと息を飲んだ。

抵抗する力が緩んでしまったそのすきに、ハナの入った樽には重たい蓋が載せられたのだった。
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