鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
☆☆☆

どれくらい樽の中に入っていただろうか。
樽は何人かの男たちのよって手押し車に載せられて、ごとごとと悪い道を動き始めた。


「出して! 出してよ!!」


樽の中は暗かったが細い隙間から微かな明かりが差し込んできていた。
ハナは手が痛くなるまで樽を叩き、声が枯れるまで助けてと叫んだ。

けれど村人たちはそれに答えることなく、歩き続ける。
誰からも返事がなく、助けられることもないハナはまるで自分が透明人間になってしまったような気がしてきていた。

このままどこかに連れて行かれて、本当のひとりぼっちになってしまうんだ。
そう思うと胸が張り裂けて絶叫してしまいそうだった。
だけど今はまだ違う。

相変わらずハナを入れた樽はどこかへ移動させられている。
せめてどこに連れて行かれているのか確認しようと、樽の木の隙間に目を寄せた。

そこから見えるのは樽が手押し車から倒れないように支えている、村人の着物の柄ばかりだ。
どうにか逃げ出すことができないか、全身を左右に揺らして樽を揺らしてみたり、蓋をお仕上げてみようともがく。

しかし、村人たちもそのくらいのことは予想していたのだろう。
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