鬼の生贄になったはずが、溺愛されています

洞窟の生活

ハナが目を覚ました時、そこには見慣れた自宅の景色があった。
茅葺屋根の天井に囲炉裏の暖かさ、灰の香り。


「ハナ、よく寝ていたわね」


そんな声がして顔を巡らせると繕い物をしている母親の顔が、囲炉裏の火でぼんやりと照らし出されている。


「お母さん！？」


驚いて飛び起きた時、玄関の戸が開く音が聞こえてきた。
開け放たれた引き戸から土間へと視線を向かわせると、野うさぎ片手に笑顔で立っている父親の姿があった。


「ハナ、目が冷めたか。今日はウサギが取れたんだ。うまいぞ」

「お父さん、お母さん……！」


目にいっぱい涙をためてふたりに抱きついたとき、体を揺さぶられる感覚がして、ハナの意識は覚醒した。
ぼんやりと霞む視界。

背中はゴツゴツとしたものに当たっていて痛い。
さっきまで感じていた囲炉裏の光も、暖かさも、ここには存在しなかった。


「やっと目を覚ましたか」