鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
なにも言わないハナに鬼が魚を差し出した。
それは川魚のイワナに枝を突き刺して、香ばしく焼いたものだった。

ハナは咄嗟に左右に首を振ったけれど、いい香りがしてきてお腹がグゥと音を立ててしまった。
思えば今日は朝からなにも食べていない。

今が何時くらいなのか、洞窟の中なのでわからないが、相当時間は経過しているはずだ。


「腹が減ってるなら食べておけ」


大きな手でイワナを手渡されてハナは恐る恐るそれを受け取った。
もしかして毒でも仕込まれているのかしら。

そんな疑念を抱いて鬼の様子を横目で確認する。
鬼は他のイワナを口に運んで美味しそうに目を細める。

その様子を見ているとハナの食欲も湧いてきた。
ゴクリとツバを飲み込んで、よく焼かれているイワナをひとくち食べる。


「おいしい!」


思わず声が出てしまった。
鬼が驚いたように目を丸くしてハナを見つめ、それから微笑んだ。


「そうだろ? 川魚は新鮮なうちに焼いて食べるとうまいんだ」
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