鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
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翌日、いい香りがしてきてハナは目を覚ました。
上半身を起こして見てみると昨日と同じように光鬼がイワナを焼いていて、呆然とする。
「あ、あの……」
背中を丸めて火の番をしている光鬼に声をかけると、光鬼は笑顔で振り向いた。
その笑顔に思わず心臓が跳ねる。
「起きたか。食事の準備ができてるぞ」
「あの、どうして私を食べないの?」
一晩ぐっすり眠って起きると朝食ができているなんて、鬼に捕まった人間の想像できることではなかった。
「食べる? どうして?」
光鬼はけげんそうに眉を寄せた。
「だって、私は生贄だから。村人たちは私があなたに食べられると思っているはずだし」
「俺は人間は食べないと言っただろう」
そう言われて昨日の光鬼とのやりとりを思い出した。
確かに光鬼は人間は食べないと言っていたけれど、それはハナを油断させるためだと思っていた。
まさか、自分の命が今日もあるなんて思っていなかったのだ。