鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
☆☆☆

ハナが洞窟へやってきてから3日目の朝が来た。
日に日に冬が近づいてきているようで、洞窟の中も朝晩が冷え込んできた。


「ここは村よりも早く雪が振り始める。それまでに木の枝も準備しておくんだ」


朝食を終えた後、光鬼はそう言って石で作った斧を片手に持った。
ハナが持てば体のバランスを崩してしまうほど大きくて重たい斧でも、光鬼が持てば軽々だ。

ハナは光鬼と共にでかけて、光鬼が伐採した枝を洞窟へと運んだ。
最初はなれない山道だったけれど、何度も往復して枝を運ぶことで徐々にハナはこの場所になれ始めていた。

光鬼が優しかったせいもあって、山での生活はそれほど苦痛ではなくなっていた。
洞窟内に枝が小山のようになってきたとき、太陽が傾き始めていた。

山の朝は遅く、夜は早い。
日中の動ける時間はどんどん少なくなっていきそうだ。

ハナは洞窟の入り口に立って大きな木々の隙間に見える月を見つめた。
今頃武雄はどうしているだろうか。

私がいなくなったことにはとっくに気がついているはずだけれど……。
ふとそんなことを考えて、左右に首をふる。

自分はもうあの村の人間じゃないんだから、考えても無駄なことだ。
武雄にだって生活がある。
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