鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
きっと、自分がいなくなったと知っても、翌日には田んぼへ出ていることだろう。
村での生活を思い出して少しだけ胸の辺りが苦しくなったとき、後ろに足音が近づいてきた。


「どうした?」


光鬼だ。
とても近くにいるようで、熱いくらいの体温がハナにも伝わってくる。
人の平熱と鬼の平熱は違うみたいだ。


「なんでもない」


ハナは知らずに滲んできていた涙を手の甲で拭い、笑顔で振り向いた。
そこには案の定、心配そうな顔を浮かべた光鬼がいた。

洞窟の奥からは山菜が炊けた美味しそうな匂いがしてきている。
今日は山菜を使った雑炊のようなものを作ると言っていた。

ここには調味料もなにもないけれど、光鬼が作る料理はどれも絶品でおいしかった。
この山にある食材の味をちゃんと把握している証拠だった。


「今度私に料理を教えてね。少しでも役立たないといけないから」

「どうしてそんな風に考える?」
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