鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
☆☆☆

ハナの両親の命を、和大奥の村人たちの命を奪っていった風邪はまだ村の中にとどまっていた。
この狭霧村は深い盆地になっているため、細菌も人を抹消して宿主がいなくなってしまうまで出られないのではないか。

そんな噂が立ち始めていた。


「これはきっと狭霧山にいる鬼の仕業だぞ」


大人たちが集まった集会で、そんなことを言う者が現れた。
みんな畑や消した浅黒い顔をしていて、ツギハギだらけの着物を身にまとっている。

座っている座布団は使い古されてペタンコで、この村の行政があまりよくないことは一目瞭然だった。
それは村の中で一番大きな山、狭霧山が関係していると村人たちは考えていた。

元々盆地型をしている上に、大きな山があるせいで日が当たる時間が短く、作物を植えてもうまく行かないことが多い。
それならその山を切り崩してしまおうという案もあったのだが、以前狭霧山にでかけていった5人の男たちがそこで大きな鬼を見たと言う。

山は鬼のすみかになっていて、とても手をつけられないというのだ。
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