鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
光鬼はハナに背を向ける形で立っていて、こちらを振り向かない。


「光鬼?」


やっと光鬼と合流できた嬉しさと安堵感。
それに浸る暇もなく、ハナは異変に気がついた。
立ち上がって確認してみると、光鬼の右腕にさっきの獣が噛みつき、鋭い牙を突き立てているのだ。


「なんてこと!」


悲鳴をあげて獣を追い払おうとするが、光鬼がそれを止めた。
光鬼は右腕を伸ばして、わざと獣に自分の腕を噛ませていたのだ。


「大丈夫だ。こいつは俺を喰うことはできない」


光鬼がそう言った直後獣は光鬼からそっと離れると、一気に山の奥へと逃げ出した。
ハナは気が抜けてその場に座り込んでしまいそうになったが、どうにか両足を踏ん張って耐えた。


「血が!」


光鬼の腕からはダラダラと血が流れ出している。
獣の犬歯は思った以上に鋭く、腕の奥深くまでを貫いていたようだ。


「これくらいどうってことない。それより、ハナが無事で良かった」


その言葉にハナの心臓がドクンッとはねた。
ここへ来て初めてハナと呼ばれた。
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