鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
崩壊する暮らし
狭霧村でも徐々に冬が近づいてきていた。
山菜と川魚の蓄えは山の生活と同じで、後はそこに米が追加される。

それだけで山と村での生活は大きく異なった。


「ハナはきっとまだ生きてる! 今からでも助けることができるはずだ!」


それは週1度の村の集会を行っているときのことだった。
各家の主が1人出てくるだけの集会に武雄が乗り込んできていた。


「武雄、今更なにを言ってるんだ。ハナちゃんのことは、もう終わったことだ」


武雄の父親が慌ててとりなそうとするが、武雄は聞く耳を持たなかった。


「ハナはなんの事情も聞かされずに生贄にされたんだ! そんなのおかしいだろ!」

「事情を知れば逃げ出してしまうかもしれなかった。そうすれば、他の娘が生贄になっていた」

「ハナだったら死んでもいいってのかよ!」


その質問には誰も答えなかった。
両親を失って立場が弱くなったハナをなんの説明もなく生贄に差し出すなんてやることが汚すぎる。

ハナは今どれほど怖い思いをしているのだろう。
どれだけ不安な毎日を過ごしているだろう。
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