鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
「ここでとったの?」

「あぁ。偶然泳いでいるところを見つけることができてラッキーだったよ」


あの日光鬼が釣りをしていた場所は、普段よりも上流へ上がった場所だった。
川の左右はゴツゴツとした大きな岩が点在していて、ハナひとりではとてもここまで来ることはできなかっただろう。

今日は光鬼に連れてきてもらったのだ。


「ここは下流よりも水の流れが早いのね」

「そうだな。足元も悪いし、人間なら絶対に来ないだろうな」


光鬼はそう言って笑ったが、ハナはそこまでして自分のために幻の魚おw吊ってきてくれたことに胸の奥が熱くなった。


「だけど眺めはとても素敵」


岩の上に立って眺める川は透明度が高くて川魚たちの様子がよく見える。
同じ山の中に流れている川でも、上流と下流で変わるのだとハナは初めて知った。


「今日はきのこ狩りをして帰ろう。そろそろいいのが出てるはずだ」


光鬼はどこかさみしげな声色でそう言ったのだった。
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