鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
「光鬼……やっぱり無理だよ……」


自分がどれだけ村の中で悠々自適に暮らしていたのかよくわかった。
山での暮らしはこれほど過酷なのだから。

もう一歩も歩けなくて座り込んでいたとき、ザッと草木を踏む音が聞こえてきて息を飲んだ。
周囲は随分と暗くなっているが、まだ見渡すだけの月明かりがある。

だけど野生動物ではないとは言い切れない。
ハナは近くに落ちていた太い枝を両手で握りしめて音がした方を睨みつけた。

そこには背の高い細い草木が茂っていて、奥が見えない。
ハナは息を殺して枝を掴む手に力を込める。

全身にジットリと汗が滲んできて、呼吸が荒くなってくる。
鼓動まで相手に聞こえてしまいそうな気がして、気が気ではない。

再びガサッと音がしたときくさきの間から出てきたのは光鬼だった。
光鬼はバツが悪そうな表情を浮かべている。


「光鬼!?」


思わず声を上げると、光鬼はハナに近づいてきた。
これは夢だろうか?
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