鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
「ハナ、無事だったんだな」


安堵したような武雄の表情を見もせずに、ハナは叫ぶ。


「武雄、あの人達を止めて!」

「なにを言ってるんだ。相手は鬼だぞ? ハナも、殺されるところだったんだろう?」


その言葉にハナは愕然とした気持ちで武雄を見つめた。
ハナはここに来てから1度も危険な目になどあったことがなかった。


「そんなことない! 私は無傷よ!」

「だけど、怪我してるじゃないか」


武雄に言われて視線を落とすと、山道で何度もこけたときにできた青あざが残っていた。
治りかけの青あざは痛みはないのに黄色みを帯びた黒に変色し、痛々しい。


「これは違うわ! 光鬼がやったんじゃないの! だから、みんなを止めて!」


ハナの言葉に武雄は半信半疑になりながた光鬼を見つめた。
光鬼はさっきまで持っていた斧を捨てて、村人たちからの攻撃を受けるがままになっている。

かろうじて両腕で頭を守っているが、それだけだ。
どれだけ屈強な鬼でも、50人から一斉に攻撃を受ければひとたまりもないはずなのに……。


「行くぞハナ。今のうちに下山しよう」
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